旅行に出かける前の、パッキングが好き。
これから出かける先の気候や旅の目的に合わせて、
スーツケースにあれこれと詰め込んでいく。
現地に友人がいれば、リクエストの品を調達したり
ビックリさせたりするプレゼントも詰めていく。
そんなことをしながら、出発の日を待つ時間も楽しい旅の一部となる。
が、湯治への旅はそうではなかった。
とにかく体がつらく、身の置きところがない状態だった。
バックに何を詰め込んだのか覚えていない…。
盛岡までの新幹線、秋も半ばという季節なのにクーラーがきつかった。
車掌さんを再三呼び止めて温度を上げるようにお願いした。
「他のお客様にとってはこの温度が適温だと思われます」
肌の炎症がひどかったサハラは、体温調整機能が低下しており
クーラーの効いた車両は寒すぎて、そのまま座っていることはできなかった。
郡山を過ぎたあたりから、ずっとデッキに出て立ったまま盛岡まで行った。
盛岡からローカル線に乗り換えて1時間20分。
駅には湯治先であるホテルのバスが迎えに来ていた。
家を出てから6時間以上が経過しており、
体全体の皮膚が乾燥し、きしんでいるのが分かった。
友人と合流しさっそく温泉に飛び込んで、全身を潤してようやくほっとした。
良くなった今になれば、あんなに遠くの温泉まで行かなくても、
もっと近場に同じような泉質の温泉があったのに、と思うことがある。
けれども、あの時は、
東京から遠く離れた山奥にある、あの温泉に行く必要があったのだと思う。
湯治は2週間程度を目安に滞在し、また2ヶ月くらいの時間をあけて繰り返す。
あまり続けて滞在しても温泉効能に体が慣れてしまい、プラス効果が低くなってしまうらしい。サハラは、湯治場までの行ったり来たりを1年以上続けた。
あとから知ったことだけど、転地効果ということがあるらしい。
例えば、標高の高い山の温泉へ出かけたとすると、気温は100m高く上がるごとに約0.6℃ずつ下がり、まず皮膚が寒冷刺激を受けて血行がよくなる。
また気圧も低くなるので、薄い空気の中で必要な酸素を取り込もうとして赤血球が増加する。そのため脈拍や呼吸数も増え、新陳代謝が高まることになる。環境変化が体の調子を整える働きを「転地効果」と呼ぶらしい。
【
温泉療養アドバイスセンター/自然がもたらす温泉の「転地効果」より抜粋】
あの湯治はサハラにとって、まさしく転地効果だった。
1人で行っていたら、きっと退屈したり不安になったりしただろうけど、
毎回友人たちとスケジュールを調整し、少なくても2人、多いときには4人で
一緒に湯治した。
原生林の紅葉や、野生の鹿との遭遇、はじめて見る巨大なツララなど
あの温泉に滞在しなければ体験できなかったたくさんのデキゴトが懐かしい。
そういえば、瀬戸内寂聴さんとの出会いも、あの温泉でのことだった。
頭のてっぺんから出ているのでは、と思われる特徴ある高音の声。
月1回、青空法話を行なっている天台寺にいらっしゃる時の定宿が
サハラの湯治先のホテルだった。
ひょんなことから、その青空法話後のサイン会を手伝うこととなり、
半日を一緒に過ごしたことがあった。
→ 次回へ続く
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